安全JAWSちゃんのハートLetter
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ハートLetterは産業カウンセラーキティこうぞうがお届けします。
作業興奮

私が今から20年ほど前にメンタルヘルスやカウンセリングを勉強している
とき、ストレスの状態を調べる様々な心理テストを覚えましたが、その中の
一つが「内田クレペリン検査」です。

内田クレペリン検査はドイツの精神医学者エミール・クレペリンの研究に着
想を得た内田勇三郎によって日本で開発された心理検査です。検査を提供する「株式会社日本・精神技術研究所」のホームページ
https://www.nsgk.co.jp/uk
によると、具体的な検査方法として「簡単な一桁の足し算を1分毎に行を変
えながら、休憩をはさみ前半と後半で各15分間ずつ合計30分間行います。
全体の計算量(作業量)、1分毎の計算量の変化の仕方(作業曲線)と誤答から、受検者の能力面と性格や行動面の特徴を総合的に測定します。」となっています。

エミール・クレペリンが先述の「作業曲線」と呼ばれる作業量と時間に関す
る研究をする中で、作業心理に働いて作業に影響を与える「興奮」という因
子を挙げています。興奮は「同一作業の進行につれて作業に没頭できるようになる状態」を表し、現代では「作業興奮」と呼ばれています。この作業興
奮をうまくコントロールすることができれば、様々な人間の行動の作業量や
作業能率を向上させることができます。たとえば、作業を始めてから維持し
ていた作業興奮が下がってきたときに「休憩」を取り入れることで作業興奮
が再び高まり、作業の効率は上がります。

作業興奮を自分でうまくコントロールするためには、作業興奮のメカニズム
を知ることが重要です。その一つが「作業興奮が低い状態、つまりやる気が
ない状態で行動を始めた場合でも、やっているうちに面白くなって作業興奮
が高まり、意欲ややる気が出てくる」ということです。みなさんも「台所の掃除をイヤイヤやり始めたけど、掃除をしているうちにやる気が出て、台所
がピカピカになるまで掃除をしてしまった」という経験はないでしょうか。
これが作業興奮により作業の能率を上げる方法の一つです。

「海馬 脳は疲れない」(池谷裕二・糸井重里著:新潮文庫)の中で、脳研
究者である池谷氏は作業興奮について、以下のように説明しています。「や
る気を生み出す脳の部位に『側坐核(そくざかく)』というがあります。側坐核は海馬と前頭葉に信号を送り、アセチルコリンという神経伝達物質が放出され、この物質がやる気を起こします。ただ、側坐核の神経細胞は厄介な 組織で、ある程度の刺激が来たときだけ活動を始める特徴があります。つま
り、やる気がない場合でも一度やり始めると、その刺激で側坐核が自己興奮して集中力が高まって気分が乗ってくるのです。」・・・。これが、脳科学
的な作業興奮のメカニズムです。

また、精神科医の西多昌規氏は著書「すぐやる!コツ」(ソフトバンク文庫)
の中で、うつ病の病期による病相の変化を表す「クレイネス曲線」を紹介し、
うつ病の症状の回復は「どん底の状態から最初に不安が治まり、睡眠がとれるようになり、食用が戻る」という順番で回復し、最後に回復するのが「や
る気」と説明しています。クレイネス曲線ではやる気という表現ではなく 「億劫さ」となっていますが、この億劫さが回復して初めて「うつ病が治った」と考えられるそうです。億劫さを回復させるためには、意欲ややる気に作用する神経伝達物質「ドーパミン」を上げる(増やす)必要があるのですが、効果のある薬は現在のところ存在せず、ドーパミンを上げるためには「作業興奮」が重要だとのことです。つまり、朝に布団から起きられない、体が動かないなどの億劫さの症状から回復するには、「布団から起きてみる」、「体を動かしてみる」というという作業を続けているうちに、やりはじめは気乗りがしなかった作業なのに、やっているうちに作業に没頭することができるようになり、億劫さが消えていくそうです。

仕事や家事や勉強などに意欲ややる気が起こらないときに能率を上げるためには、「とりあえずやってみる」ことが大切なようです。みなさんも、何事
でも「やる気スイッチ」をONにして、やり始めることからスタートしまし
ょう(終)。


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