安全JAWSちゃんのハートLetter
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ゾウの時間ネズミの時間

本川達雄氏の著書「ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学」を読みま
した。本川氏の専門は動物学で、動物の体重(サイズ)によって時間の流れ
の速さや行動圏や生息密度が違うことをわかりやすく論理的に説明しています。まずは、体重と時間との関係です。

【法則1:哺乳類の時間は体重の4分の1乗に比例する】
つまり、動物は体重が16倍になると時間が2倍になるということです。体
の小さいネズミはちょこまかしているのに対し、体の大きなゾウはゆっくり
と足を動かします。人間は時計を使って時間を測りますが、そのような物理
的・絶対的時間ではなく、ゾウにはゾウの時間、ネズミにはネズミの時間と
いうように、体重に応じて違う時間の単位があるようです。生物におけるこ
のような時間を物理的な時間と区別して、「生理的時間」と呼びます。

【法則2:哺乳類ではどの動物でも一生の間に心臓は20億回打つ】
時間の中には寿命も含まれていて、体重が大きくなるほど寿命も長くなりま
す。ネズミは数年ですが、ゾウは100年近い寿命を持っています。ところ
が、心臓の鼓動ではネズミは1分に約600回、ゾウは約40回です。心臓
が個々の動物に埋め込まれた時計だとすれば、すべての哺乳類は20億回という平等な「時間」を持っているといえます。だから、ネズミが物理的な時
間である寿命が短いといっても、一生を生き切った感覚はゾウもネズミもあ
まり変わらないことになります。

【法則3:哺乳類の標準代謝量は体重の4分の3乗に比例する】
標準代謝量は個体が生命を維持していくのに必要な基本的なエネルギー消費量で、体重が2倍になるとエネルギー消費量は1.68倍になるということです。体重4トンのゾウと体重40グラムのネズミとでは体重差は10万倍
ありますが、エネルギー消費は5600倍しか違わないことになります。

【法則4:動物の生息密度は体重にほぼ反比例する】
生息密度は人間でいえば人口密度です。日本の人口密度ほどギュウギュウに住んでいる動物の体重を計算すると140グラムになります。今の日本人の生活はネズミ小屋暮らしということになります。

【法則5:定住性の動物の行動圏はほぼ体重に比例する】
大きな動物ほど広い行動圏を持つことになります。サラリーマンが立川から
中央線を使って丸の内まで通うとすると、通勤距離は37.5キロメートル
となり、これを行動圏の半径として、このくらいの広い行動圏を持つ動物の
体重を計算してみると、ゾウ並みの2.9トンになります。

【法則1】に基づいて人間の寿命を計算すれば50年くらいです。ところが、
今や人間の寿命はもっと延びています。これは、昔とくらべ食糧供給が安定
したことや安全な住環境ができたこと、医療技術の発達により物理的な時間を延長したこと、そして乗物や電話やコンピュータ(IT)という文明の利
器を使ってエネルギー消費量を少なくしていることが大きな理由だと思いま
す。そのかわり、ネズミ並みの人口密度で暮らしながら、ゾウ並みの距離を
移動するという都会人のライフスタイルは本当に幸せなのでしょうか。

この著書で本川氏は最後にこう述べています。「都会人のやっていることは、 はたしてヒト本来のサイズに見合ったものだろうか?体のサイズは昔とそう変わらないのに、思考のサイズばかり急激に大きくなっていく、それが今の都会人ではないだろうか。体をおきざりにして、頭だけどんどん先に進んでしまったことが、現在の人類の不幸の最大の原因だと私は思っている。・・ ・」。いろいろ考えさせられる内容でした(終)。



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