安全JAWSちゃんのハートLetter
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ハートLetterは産業カウンセラーキティこうぞうがお届けします。
相手の名前を呼ぶ

私が30歳過ぎにゴルフを始めたころ、初めて行ったあるゴルフ場でプレー したときの話です。5ホール目まで終了して茶屋に入ると、「鬼頭様お疲れ 様です、何を飲まれますか?」と女性係員が聞いてきました。私は「何で私 の名前がわかるんだろう?名前言ったかな?以前に会った人かな?」などといろいろ考えましたが、やはりはじめて会った人でした。タネを明かせば、 キャディさんが事前に(私たちの見ていないところで)無線でメンバーの名 前と特徴を茶屋に伝えていたのです。私はきっと「○色のポロシャツを着た ちょっと太っていて背の低い人が鬼頭様です」と伝えられていたのでしょう。

これは「バイネーム・サービス」と言って、お客様の名前を呼ぶサービスの ことです。キャディや茶屋の係員、レストランのウェイターなど接客部門全 員がすべての来場されたお客様をお名前でお呼びするサービスです。多くのお客様が「どうして私の名前がわかるの?」と感動されるそうです。現在では、ゴルフ場だけでなく多くのホテルでも、このサービスが浸透してきてい て、私が最近泊まったホテルでも、フロントに電話すると「鬼頭様、何か御 用でしょうか」と名前を読んでいただきました。

また、以前に私が参加した経営者講演会で、新日本製鐵(現・日本製鉄)の 武田豊・元会長は人事部長時代に名前を呼ぶことを上手に使った人だと伺いました。彼は時間を見つけては会社の従業員名簿を開き、2000人ほどいる課長クラスの従業員の顔を全部覚えたそうです。そして、社内で顔を合わせると、「○○君、元気でやっていますか」と声を掛けたそうです。人事部長から声を掛けられた課長たちは、「ほとんど話したことがないのに、俺の名前を知っているなんて」と驚くと同時に、感激したそうです。これによって、 その従業員たちがやる気を持って仕事に取り組んだことは想像に難くありま
せん。単に「君、元気でやっていますか」というのではなく、相手の名前を呼 んだところが素晴らしいと思い、私も労働組合役員のときに実践しました。

この他にも、名前を上手に使って人の心を動かした例として、新田次郎の小説「富士山頂」に次のような話が載っています。「富士山に気象観測レーダーを建設しているとき、工事の進行が遅れてしまった。このままでは予定された期日に間に合わなくなると考えた現場の責任者は、上司に『作業員全員の名前を観測塔の壁の銘板に刻んでください』と進言した。上司がこれを認め、自分たちの名前が永久に残ると知った作業員たちは、俄然やる気に燃え、予定どおりにレーダーは完成したという。」・・・。自分の名前が記録されるということが、どれほど大きなモチベーション(動機づけ)になるかがこ のエピソードによく表われています。

このように、自分の名前が記憶されたり記録されることで、自分の行動に責 任を持たせる効果があります。先日、タクシーに乗ったときに運転手が「毎 度ありがとうございます、本日のドライバーは〇〇です、よろしくお願いいたします」と自分の名前を名乗りました。名前を名乗った瞬間から、タクシーの運転手は「あなたの安全は私が守ります」という責任感を持つことになり、安全運転への意識が高まるのでしょう。オフィスや学校などで「火元責任者」という役職と名前の書かれたプレートを見たことがある方も多いかもしれませんが、このプレートには「○○(名前)はオフィスや学校の防火管理に責任を持ちます」という意味があるのです。

人の名前は単なる固有名詞ではなく、その人の人間的要素であり人格なのです。だから、相手の名前を呼ぶことは「私はあなたのことを認めていますよ」というメッセージであり、それが相手の喜びと感動を生み出すことになります。また一方で、名前が記憶されたり記録されることは、その人に対する重要感を表現し、その人の行動や言動に責任感を持たせることにつながります。
つまり、名前を上手に使うことによって、相手の行動や言動をコントロールす ることができ、良い人間関係を築いていくことができるのです。

これから、人にお願いをするときや助けてほしいときは「○○さん、手伝ってもらえると私は助かります」と相手の名前を呼んでみましょう。きっと相手は「他の人でなく、私だけを選んで頼ってくれたんだ」と思い、より信頼関係が深まると思いますよ(終)。

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