安全JAWSちゃんのハートLetter
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てんびんの詩

滋賀県の近江八幡に近い五個荘(ごかしょう)は多くの立派な近江商人を輩出しています。その近江商人をテーマにした映画「てんびんの詩」を紹介します。

『大正の末期、近藤家の跡取り息子大作は、小学校を優秀な成績で卒業。卒業式を終わって家へ帰ると、父から祝いの言葉と共に小学校の卒業記念に「てんびん棒」と「鍋蓋(なべぶた)」を贈られ、「明日からこの鍋蓋を行商し、もし売れなかったら商家の跡継ぎにはできない」と命じられた。大作はまず家に出入りをする大工や植木屋のところを訪ねた。初めのうちは世話になっている商家の息子ということで大事にされるが、鍋蓋の行商とわかると冷たくあしらわれた。知り合いの大人たちは行商が修行であることを知っているので、なおさら義理で買うようなこともしない。大作は今度は見知らぬ人の家を回ってみたが、ほとんど口さえ聞いてもらえない。彼はやがて親 を恨み、買わない人々を憎んだ。父や母が彼以上に辛い思いで見守っているのが、大作にはわからないのだ。大作は、幾日も、幾日も、足が動かなくなるまで行商にでるのだが、どうしても売れない。しかし、鍋蓋が売れないこ とには、家に戻ることは許されていない。何日経っても、一つの鍋蓋も売れ ない大作の目にはいつしか涙がたまっていた。』・・・。

このあと、ある出来事をきっかけに大作は鍋蓋をすべて売り切り、父や母の 待つ家へと帰ることになるのですが、その一件により商いの原点と商人の魂を学んだ大作は、その後近江を代表するような大商人へと成長しました。詳しくは映画をご覧ください。

小学校を卒業した大作少年が、商いへの葛藤を通して社会の仕組みを体験していく近江商人の物語「てんびんの詩」は、原点を見失いそうな今日の社会に多くの示唆を与えてくれます。この物語は語っています。売る者と買う者の心が通わなければ物は売れないということを。このことを忘れ、儲けてやろう、成績を上げようと躍起になると、単なる「押し売り」でしかなくなり ます。金儲けがしたいとか、世継ぎになりたいとか、それは商人の都合でお 客様に何の関係もないことです。「売ってやろう!」といううちは、自分中心なのです。自分が売る商品に惚れて、「この商品は絶対いい買い物だから、 ぜひ買って幸せになってほしい」、「自分はこの商品を紹介することで、人 様のお役に立ちたい」という気持ちになると、まさに相手中心になります。
お客様が商人の人柄に心引かれ、「あの人は立派な人だ、信頼できる人だ」と心底惚れたときに、買おうという気になるのです。まさに、「売る者と買う者の心が通ってはじめて物は売れる」のです。

映画「てんびんの詩」は、日本中の各地で自主上映されました。また、教育 研修用ビデオ制作・販売の(有)日本映像企画からビデオ・DVDが発売さ れていて、企業や団体の教育研修として多くの場所で活用されてきました。
なお、この映画の制作にも関わり、自動車用品を扱う「イエローハット」の創業者である鍵山秀三郎氏がこの映画の資金提供をされています。彼は世界的ボランティア活動となった「トイレ掃除」を発信し、「掃除の神様」と呼ばれています。彼は掃除の効用として「謙虚な人になれる」、「気づく人になれる」、「感動の心を育む」などを挙げています。まさに、大作少年が鍋蓋を売るために学んだことと重なります。

また、映画「てんびんの詩」の教えは商売だけでなく、コミュニケーションでも重要です。「自分の言いたいことだけを言って、相手の話を聴かない」、「自分から相手にお願いや依頼ばかりして、相手からのお願いや依頼は受け 付けない」、「自分の仕事の成績を上げるために、相手に不利益を与えたり相手を踏み台にしている」など、お互いの心が通わないコミュニケーションを続けている間は良い人間関係は築けません。お互いが「相手の話をじっくり聴いてみよう」、「自分より相手のお願いや依頼を優先しよう」、「相手のおかげで仕事が順調に進んでいる」という心の通ったコミュニケーションを心がけることで、より良い人間関係を築くことができるでしょう。

ちなみに、「おかげさま」という言葉は、もともとは神仏のご加護のことなのですが、近江商人が反物などの商品を持って全国各地に行商に出掛けていって「おかげさま」という言葉を使っていたために、これが全国に広がったのだそうです。「おかげさま」の「かげ」とは目に見えないものという意味で、自分の仕事や生活が順調であることを「○○様のお力添えがあって」と限定せずに、目に見えない無数の縁に支えられているという意味を「おかげさま」という言葉で表しています。近江商人がルーツとされる伊藤忠商事、 ワコール、高島屋などの企業は「おかげさま」の精神と心の通ったコミュニ ケーションで企業の業績を伸ばして、成長を続けています。私も近江商人の 「おかげさま」の精神を見習って、心の通ったコミュニケーションを心がけていたいと思います(終)。

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